商業BLは最高なんだ

いつだったか2次創作を好んで読む人へ「なぜ商業BLを読まないの?」という質問へのアンサーが燃えていることがあった。

 

 

私自身商業BLを読み始めたのは確か6.7年ほど前だったと思う。

小学生の頃から漫画好きではあったが少女漫画と少年漫画が好きな少女時代を過ごした。

私が初めてBLというものに触れたのは中学3年生の時。友達がいかがわしい漫画を持ってくるからトイレで読もう!と言うので参加させてもらったら、テニ◯リの同人誌だったのだ!!

当時の私には刺激が強すぎたのか、はたまたテニ◯リに興味がなかったからなのか全く響かなかった。

 

私には3つ下の妹がおり私よりもオタクな人生を歩んでいる。

大人になり育児に追われる日々に潤いを与えてくれたのは2014年にハマったハイキューだった。

ツイッターやpixivに投稿されるイラストや漫画を読み漁り、それでは飽き足らず遂には同人誌まで手を出してしまった。もう後戻りはできない。一度踏み入れたら抜け出すことなんてできないのだ。

 

前述したとおり私にはオタクな妹がいる。

だが私はBLを読み始めたことを妹に打ち明けられない日々が続いた……

 

・そんな私に転機が訪れる

いつも通り妹と話す中でBLを読み始めたことを遂に打ち明けた。

すると妹が「私も読むよ!商業BLとかは読まないの?面白いよ!持ってるから貸してあげようか?」と。

 

「もってるん?!?!」

 

あの時の盛り上がりようは凄まじかった。

ビギナーにも読みやすい、絵が綺麗で繊細なものを見繕って貸してくれた。

私は転がり落ちるように商業BLの世界へ堕ちていった。

 

 

・商業BLの奥深さ

商業BLは作家さんのオリジナルストーリーだ。

学生もの、学生と先生、サラリーマン、設定をあげ始めるとキリがないので早めにやめておく。

ライトなものからヘビー級まで様々取り揃えている。

この選択肢の多さがとっつきにくさを助長させていると思っている。

 

 

・選択の難しさ

実際沼に入りたての頃はどんな作品を買ったらいいのか分からず、一回の買い物で2万円くらい使ったこともあった。それでも自分に合う作品は限られている。

その分二次創作は原作ありきで成り立つので間口も広く、様々な人が楽しめるジャンルになっていると思う。同人誌販売サイトやpixivではサンプルも上がっているので自分の性癖に合うか合わないかの判別がつきやすい。

しかし商業BLはそうはいかなかった。

単行本の表紙絵と裏表紙のあらすじ紹介を読み、自分の琴線に触れる作品かを見極めるのは非常に難しい。

電子書籍サイトの有り難みを感じる。

 

 

・商業BLの最高なところ

オリジナルストーリーを存分に楽しめる。

好きなキャラと好きなキャラが仲良しこよしだと嬉しいし、そこに萌える気持ちは痛いほどわかる。

でも商業BLに登場するキャラがあなたの推しになる可能性だってあるのだ!そのキャラの恋を間近で応援できる。

一巻完結のものが多いのも特徴だ。

シリーズ物もあるが、次巻にモヤモヤを持ち越すことが少ない。早めにハッピーエンドが見たい人にはもってこいだったりする。

 

 

・まあでも合わない人もいるよねっていう

どんなツイートが話題になっていたのか詳しく覚えていないのだが、知らんキャラ同士がくっついたって「ふぅん…」としか思わない、その先に萌えはないみたいな事だった気がする。

割と少女漫画寄りだったりするので、人間模様を描いたラブストーリーものが好きではない人にはウケないだろうなと思っている。

最近職場の方に漫画を貸す機会があったのだが、少女漫画しか読まないけどもし良ければ貸して欲しいと言った方は大正ロマンBLが刺さったらしく同じ作家さんの本があれば貸してもらえないかと連絡があった。

その本は最後の最後でようやく結ばれる。時代背景も相まって2人の感情の描き方も美しい。本編では幸せな時間を長く描くことができなかったからか、作家さん自らが同人誌を発行し補完してくれている。

そう!商業BLにも同人誌がある!

 

 

・創作ジャンルの同人誌

私はこれを買い求める為に即売会へと足を運んでいた。

二次創作ジャンルが主流だと思われがちだが創作ジャンルの賑わいだってすごい。

人気作家さんは早々に完売してしまうので二次創作共に即売会は戦争である。

商業誌で掲載→単行本発行の流れを踏んでいる作品の同人誌もあれば、世に出ていない完全オリジナル作品もある。

 

意外と広くて深い。

まずはお試し程度に読んでみてほしい。

もしかしたらあなたに合う作品に出会えるかもしれない。

 

 

BLハンターは今日も自分の性癖をくすぐる作品との出会いを求めてアマゾンの奥地まで旅をする……

 

 

ヤクザと家族The Familyに心を揺さぶられ続けている話(ネタバレ含む)

 

 

父も母もいないけど、

私には《家族》がいました。

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映画『ヤクザと家族 The Family』| 大ヒット上映中

 

2月3日 仕事が休みだったので気になっていたヤクザと家族を観に行くことにした。

もともとmillennium paradeが主題歌を担当するということと、綾野剛さんが主演を務めることで注目していた作品。私は普段映画をあまり観ない人間なので映画の基礎知識などは何もない。映画公開に先駆けて、主題歌であるFAMILIAのMVが公開され「これは本編を見ないと本当の意味で理解することはできないのでは?」と思い劇場に足を運んだ。

 

 

 

結論から言うと心が揺さぶられすぎて劇場でとんでもないくらい泣き、今も尚普通に生活していてもふとした瞬間に心が囚われてしまうくらいにこの作品は私を惹きつけて離さない。

 

 

2月24日に2度目の鑑賞をしてみた。

少しは落ち着いて見られるかと思ったが全くそんなことはなかった。

 

 

・自分なりにどんな作品なのかを簡単に整理

ヤクザを"家族"という視点から描いた今作は、血の繋がりだけが家族ではないということと共に、血の繋がった家族との小さな幸せを噛み締めながら生きていきたいと願った男の人生を描いている。

1999年・2005年・2019年の3部構成で山本賢治を描くことに違和感を感じさせない。19歳の山本賢治も25歳の山本賢治も39歳の山本賢治も全てが山本賢治だと見ている人間に思わせる。本当にとんでもない。綾野剛さんが完全完璧に山本賢治である様は少し怖くもあった。

そして同じ怖さを市原隼人さんにも感じた。

 

 

19歳の山本賢治のヴィジュアルが物凄く印象的で、真っ白なノースフェイスのダウンを真っ赤に染めて柴咲組の事務所で泣く姿は一度見たら脳裏に焼き付いて忘れることはできない。

 

こういった細かいヴィジュアルの設定は藤井監督と綾野剛さんが毎日連絡を取り合う中で生まれたと言っていた。役作りにストイックすぎるからこそ、私たちは画面の向こうにリアルな山本賢治を感じることができるのだろう。

役者ってとんでもない……

 

 

 

・ロケーションも最高!

ロケ地は沼津や富士周辺の港町らしい。(横浜中華街もあるのかな?)

監督の藤井道人さんは名古屋の工業地帯が好きでそこをロケ地としたかったそうだが色々な理由で却下されたとか笑 確かに私もあの雰囲気が好きでそっち方面に行った時に夫に運転を代わってもらい動画を撮影した思い出がある。その時は早朝だった事もあり朝焼けに工業地帯がやけに映えた。

 

 

 

山本賢治という人間

ケン坊という愛称で親しまれるその人は危なっかしくて見ていられないくらい自暴自棄になっていた。悪友達とその日暮らしの生活を送る。父親にヤクを売っていた売人に手を出したことを思い返すとどんな形であれ父親の仇を討ちたかったのかもしれない。(頭に血が昇り突発的に取った行動だったような気もするが)どんな形であれ血の繋がった唯一の家族を失ったケン坊には居場所がなかった。寂しさを紛らわす為に虚勢を張っているようだった。

 

 

・1章2章について

ここでは触れないことにした。

なぜなら纏める力がないから!今回文字起こしをしてみようと意気込んだものの途中で自分の文才の無さに嫌気が差し、ノートに整理しようとしたら6ページにもなってしまい全く纏まらなかった。

 

 

・感情が入り乱れ交差する第3章

山本が刑務所入りをするシーンから長めの暗転を経て、刑期を終え出所するところから始まる第3章は物語の要だ。

オンライントークイベントで藤井監督が暗転の時間は14秒あることを教えてくれた。山本の刑期は14年。これを聞いた時には鳥肌が立った。

14年もの間外の世界から分断された生活を送っていた山本はまさに浦島太郎状態。変わってしまった町並みも、衰退してしまった組も、新たに施行された法律も、全てを一瞬で受け入れなければならない。「ヤクザは携帯さえ契約が難しい」と手渡されたスマホをタップする様はおじいちゃんみたいで哀愁さえ漂う。白髪混じりの髪も、ちょっと猫背っぽい立ち方も全くわざとらしさなどなくなんだか少し愛おしく感じた。

 

一番最初にかけた電話の相手は由香だった。もちろん繋がることはない。

それでも人伝に由香の職場を聞き出し退社したところを待ち伏せする。その執着が少し恐ろしくもある。…まあ気持ちはわかる。

 

 

・娘の存在

由香との再会で山本は自分に娘がいたことを知る。あの一回だけで出来たんだから奇跡に近い。その辺りのゲスい勘繰りはやめておこう笑

彩は唯一の山本賢治の血の繋がった家族だった。生きているうちに彩が知ることはなかったがなんとなく気づいてたんじゃなかろうか。

柴咲の勧めもあり山本は組から抜けることにした。細野が社長に頼み込んでくれてすぐに真っ当な仕事に就く事ができたし、最愛の家族と挨拶を交わし朝食を共にとることもできた。彼が望んだささやかな幸せ。きっとその瞬間は彼にとって掛け替えの無い時間だった。車で由香を送り、娘との2人きりの時間を噛み締める様に味わう。「昔は綺麗だったんだよ」と由香の事を口にする山本の表情はとても柔らかく本当に幸せそうだった。

しかしその幸せは続かない。SNSでの炎上は一瞬で燃え広がり、由香や彩、そして細野の居場所さえも奪う。自身がしてきた事を省みたら当然のことなのかも知れない。

余談だがBANANA FISH作者の吉田秋生先生も「アッシュは何人も人を殺めているから死なねばならなかった」と言っていた。しんどい。

ひとりの行動ひとつで簡単に何人もの人生を奪える世の中は息苦しく、今の社会を生きていくのは普通の人間でさえ難しかったりする。

 

 

・賢治と翼の共通点

ヤクザが表立って商売をできなくなってからは翼が町を取り仕切っていた。

そんな中で侠葉会と刑事の大迫が裏で癒着していたことを掴んだ翼は、それをネタに大迫を強請る。

 

「親父を殺した奴わかりましたよ」

 

そう山本に言う翼は若き頃の山本を彷彿とさせるような危うさを孕んでいた。

 

次世代に未来を託す為に山本は負の連鎖を自らの手で断ち切ることを決める。

不器用で真っ直ぐだが浅はかすぎる男の答えだった。

 

 

・ブックエンドの先にささやかな希望を

映画の始まりと終わりを同じカットで構成することをブックエンドというらしい。またひとつ賢くなってしまった。

この作品はブックエンドの外側に希望を込めている。それは藤井監督の言う裏テーマである

「負の感情の連鎖をどう止めるか」

次世代を生きる若い2人は山本賢治にとって最後の光であり希望だったのかもしれない。その2人の邂逅を以って物語を締め括ることで少しだけ希望が持てる気がした。

それは作品を観てからFAMILIAのMVを観た時にも感じられた。

 

 

・FAMILIA

藤井監督はもともと主題歌を岩代さんに劇伴でお願いするつもりだったと言っていた。綾野剛さんから勧められ、岩代さんと常田くんが共に藝大出身ということに縁を感じ曲を書いてくれないかとお願いしたんだとか。

煙の中に座り込むケン坊の肩には銃創があり細かい演出にも感動した。作品の中で象徴とされてきた煙をMVにも落とし込む。

刺青のペイントは7時間ほどかかるらしく、MVと言えど手抜きは一切しない。撮影は去年の年末だったようなので、本編撮影後からかなり時間が経っていたにも関わらず綾野剛さんは完全完璧なケン坊だった。

みんなで棺を担いで海岸沿いを歩くシーンは私の心を掴んで離さなかった。

涅槃経の四句の偈が書かれた何かを掲げていたり、玉入れの籠のようなものを持って行進する人々。舞う紙吹雪。調べてもどういったものでどんな意味があるのかがわからない。どなたか知っていたら教えて欲しい。

涅槃経の四句は前半が「諸行無常 是生滅法」後半が「生滅滅已 寂滅為楽」

これは雪山童子に羅刹(帝釈天)が唱えた言葉だそうだ。ちなみに山本の背中には阿修羅像の刺青が入っている。インドでの阿修羅は帝釈天と常に戦う悪の戦闘神になると書いてあった。

たとえ正義であっても、それに固執し続けると善心を見失い妄執の悪となる。

  Wikipediaより引用

山本は自分の正義に固執しすぎたのだろうか。私には何が正義で何が悪なのかわからない。正義も悪も紙一重なんじゃなかろうか。

 

またYouTubeのコメント欄で海を船で渡るシーンは「高瀬舟なのでは?」と言っている方がいて学を持つと視野が広がる典型例だと痛感した。本が苦手で漫画ばかり読んできた自分を少し悔やむ。もう少し文学を嗜んでおけば色々なことを今の何倍も楽しめたのかもしれない。

高瀬舟森鴎外の短編小説のひとつで、罪人が遠島を申し渡された時に親類との暇乞いが許されているのだが、親類のない罪人・喜助はひとり高瀬舟に乗り護送役の同人・庄兵衛が身の上話を聞き出すという物語だ。

正直どんなに画面を明るくしても舟に乗っているのが誰なのかはわからない。

高瀬舟の喜助の様に山本ひとりなのかも知れないし、はたまた誰か親しい人間が乗り合わせているのかも知れない。

そこはいつか明らかになってくれたら物語の補完に繋がる気もするが、このまま誰なのかわからないのもいいんじゃないかななんて思ってしまう。

MVの後半、一番盛り上がるところで14歳の彩が現れる。彩の寛大さと全てを包み込む優しさになんとも言えない感情が湧き上がり涙が出た。

劇中、由香の留守番電話へ残した最後の言葉は「もう一度会いたい。愛してる…」

週刊ヤクザと家族にて尾野真知子さんが「どうしてMVの撮影に呼んでくれなかったのか」と聞き、藤井監督が「由香が出るとネタバレになっちゃうから」なんて言っていた。確かに映画を観る前にMVを見た人は由香と彩が出ていたら何となく察してしまう。

あの演出は、生前に自分が実の父親であると娘に打ち明けられなかった山本へのせめてもの手向け花なのかも知れない。

 

私はエンドロールに入った最初のワンフレーズで嗚咽が抑えきれないくらい泣いてしまった。

終わった後もなかなか席から立ち上がれなかった。

 

パンフレットの最後、クレジットが載っているページの写真が死ぬほど好きだ。MVの最後に彩が防波堤に立つシーンと似ている。

 

 

 

 

 

どうしても冷めぬ熱を消化したいと書き始めたが、なかなか上手く纏まらなかった。

上映回数も少なくなり劇場で観られる回数は限られている。

もう一度スクリーンで観たい。

そうしたらまたブログを書こう。

次は好きなシーンについてもうちょっと深掘りできればいいな…

 

少し暴力表現もあるが、苦手でない方は是非スクリーンで観て欲しい。

プロデューサーの佐藤さんが劇場のスクリーンで観てもらうことに拘ったと言っていた。本当にスクリーン映えする良い作品だ。

素晴らしい作品に出会えて心の底から嬉しい。

同じ時代に生きていて本当に良かった。